保育士の待遇は年々改善されている!?保育士の「処遇改善加算」とは?
- 保育士お役立ち情報
- 2023/05/09
保育士の「処遇改善加算」について詳しく紹介します。
保育士の「処遇改善加算」とは?
保育士の処遇改善を目的とした制度
保育士の世間的なイメージの一つとして「給料が安く、重労働」というものがあります。
ただ、それが正確かというと疑問があります。保育士の給与やキャリアを巡る状況は、以前よりもかなり改善されています。それは、「処遇改善加算」の施策が2015年から開始されているためです。
「処遇改善加算」という言葉はわかりにくいですが、保育士が長く働いていくために給与やキャリアアップなどの処遇を改善するための制度です。
「処遇改善加算」はなぜできたの?
保育士の人手不足解消のため
なぜそのような制度がつくられたのでしょうか。それは、保育ニーズが増加している中、保育士の人手不足を解消するためというのが理由の一つです。
実際、「給料が低い」「長時間労働」というイメージの保育士を避ける潜在保育士(資格はあるが保育士にならない人)が以前から多いという現実もありました。
今まで、「処遇改善加算」は3回に渡って実施されています。それらは、処遇改善加算I、処遇改善加算II、処遇改善等加算Vと呼ばれています。 現場ではなじみのない言葉ではありますが、保育士であれば自身の給料、キャリアのことなので気になるところです。内容を詳しく見ていきましょう。
「処遇改善加算I」とは?
平均経験年数などによって、加算率が変わる制度
処遇改善等加算Tは、2015年に導入されました。賃金の安定的なベースアップを目的として、職員一人あたりの平均経験年数などによって、加算率が変わる制度です。
【加算対象】
正規職員だけでなく、パート・派遣などの非常勤職員も対象
【加算額の計算】
処遇改善等加算Tの加算率は、「基礎分」「賃金改善要件分」「キャリアパス要件分」の以下3つから設定されています。そこから加算額を算出します。
@基礎分
職員1人当たりの平均経験年数に応じて加算率を設定。賃金に2〜12%上乗せされます。
A賃金改善要件分
施設で賃金改善の取り組みが適切に行われているかによって加算される仕組みです。なので、園からの賃金改善計画・実績報告が必要になります。職員一人あたりの平均経験年数が11年未満の施設は4%、11年以上の施設は5%が賃金に上乗せされます。
Bキャリアアップ要件
職員のキャリアアップに関する要件を満たした場合に加算される仕組みです。具体的には、職員の資質向上に向けた具体的な計画策定や研修の実施が要件です。加算率は2%ですが、要件を満たさない場合、Aから2%減されます。
参考:子ども・子育て支援新制度市町村向けセミナー資料(内閣府)
【配分方法】
それぞれの保育園で、職員の経験年数、状況を把握して自治体に申請。国から受け取った金額を職員に支給するという流れになっています。
「処遇改善加算II」とは?
新たな役職を増やし、その賃金に加算する制度
処遇改善等加算Uは、Tとは成り立ちが全く異なります。処遇改善等加算Uとは、若手・中堅保育士のキャリア支援のために新たな役職を増やして、その賃金に加算する制度です。なぜそのような制度がつくられたのでしょうか。
かつて保育士の役職には園長、副園長、主任などしかありませんでした。それにより若手や中堅保育士はキャリアの見通しが描けないという問題がありました。2017年、処遇改善加算IIによって役職が増設されて、若手・中堅保育士にもキャリアアップによる給与アップの機会が与えられました。
【加算対象・加算額】
以下の新しい役職の賃金に加算されます。
@副主任保育士
主任保育士の補佐業務を行う管理職
経験年数:
概ね7年以上 ※職務分野別リーダーを経験
必要用件:
4分野以上のキャリアアップ研修の受講が必要
(1講座はマネジメント分野を受講)
加算額:
月額4万円
A専門リーダー
専門分野に精通したリーダー保育士
経験年数:
概ね7年以上 ※職務分野別リーダーを経験
必要用件:
4分野以上のキャリアアップ研修の受講
加算額:
月額4万円
B職務分野別リーダー
特定分野のリーダー保育士
経験年数:
概ね3年以上
必要用件:
1分野以上のキャリアアップ研修の受講
加算額:
月額5,000円
参考:「技能・経験に応じた処遇改善等加算Uの仕組み」(内閣府)
「処遇改善加算V」とは?
職員の給料引上げ費用を保育施設に補助する施策
2022年2月からスタートした処遇改善等加算Vは、職員の給料引上げに必要な費用を保育施設に補助する施策です。実施の背景には、2015年から処遇改善加算が導入されたものの、保育士の給与はいまだに全職種の平均と比べて下回っているという現実があったためです。
【加算対象】
正規職員だけでなく、パート・派遣などの非常勤職員も対象
【加算額の計算】
1カ月あたり給料が約9,000円アップ(保育士の給料の約3%として月額9,000円引き上げを実施)
【配分方法】
それぞれの保育園で、自治体に申請。職員の給与に充てるための費用として国から受け取った金額を職員に支給するという流れになっています。
処遇改善等加算T、U、Vの違いについて
処遇改善等加算T、U、Vは「保育士の賃金を改善する」という大きな目的は同じですが、それぞれアプローチが異なっています。その違いについて見ていきましょう。
【目的】
「処遇改善等加算T」:
職員の経験年数など各園の状況を把握し、賃金のベースアップを図る。
「処遇改善等加算U」:
保育士の技能・経験に応じてキャリアアップできる組織体制の整備により賃金のベースアップを図る。
「処遇改善等加算V」:
保育士の更なる待遇改善を進め、賃金のベースアップを図る。
【対象者】
「処遇改善等加算T」「処遇改善等加算V」:
すべての職員(非常勤職員を含む)
「処遇改善等加算U」:
保育士としての経験年数が3年以上の職員で研修を修了した者
処遇改善等加算Uのみ、新しい役職に就いた方が対象となります。
【配分方法】
「処遇改善等加算T」:
すべての職員が対象ですが、手当をどのように配分するかは施設に委ねられています。
「処遇改善等加算U」:
副主任保育士と専門リーダーには月額4万円、職務分野別リーダーには月額5,000円が賃金に上乗せされます。
「処遇改善等加算V」:
すべての職員に1カ月あたりの給料が約9,000円アップするように配分します。
新たに実施された処遇改善は、引き続き継続!?
「処遇改善加算V」については、国の施策として2022年2月〜9月までの8か月間実施されました。ただしそれで終了ということではなく、その後、2022年10月からは地方交付税措置による公定価格の見直しにより、同様の補助が継続されました。
さらに、厚生労働省の資料を見ると、「処遇改善等加算V」は2023年度も予算化されたことがわかります。なので、現段階で「処遇改善等加算V」は少なくとも2024年3月まで継続されるようです。その後の行方についても注目していきたいですね。
地方自治体で行われている処遇改善について
今までご紹介してきたような「処遇改善加算」は国の施策ですが、地方自治体が主体となった処遇改善の施策も実施されています。とはいえ、すべての自治体が行っているわけではなく、それぞれ内容が異なっています。ここでは、例としていくつか紹介します。
東京都江戸川区
【実施施策】
・給料に区独自の補助(1万円相当)
・保育宿舎借り上げ支援制度(保育士用の宿舎を借り上げる法人の支援)
・5年ごとの節目に10万円の報奨金
・保育士の子どもの入園に一定の配慮
千葉県松戸市
【実施施策】
・給料に市独自の補助 (「松戸手当」として、月額45,000円〜78,000円まで支給)
・保育宿舎借り上げ支援制度
・新卒保育士向けの家賃補助制度
・10年間勤めあげた保育士に永年勤続表彰(クオカード30,000円分など進呈)
千葉県流山市
【実施施策】
・給料に市独自の補助 (月額43000円の給与上乗せ)
・保育宿舎借り上げ支援制度
・奨励金の支給(流山市に採用された新卒、潜在保育士が対象)
・保育士の子どもの入園に一定の配慮
神奈川県横浜市
【実施施策】
・給料に市独自の補助 (「職員処遇改善費」として経験年数7年以上の全ての保育士に月額4万円の給与上乗せ)
・保育宿舎借り上げ支援制度
まとめ
今回は「処遇改善加算」について紹介しましたが、行政独特の言葉も多く、一般の保育士にはわかりにくいこともあるかもしれません。ただし、国を挙げて2015年から様々な形で給与の改善が行われてきていることは知っておいた方がいいでしょう。
さらに、自治体によっても独自の施策が行われています。転職や入職の際には、自治体のホームページを見たり、問い合わせをしてみることをおすすめします。
ライタープロフィール
玉田 洋さん
保育園運営企業で、子育て雑誌編集長を経験し、その後、都内で保育士として勤務する。現在は「森の保育園」を計画中。
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