パワーハラスメントにならない指導の仕方2
- 保育士お役立ち情報
- 2021/08/05
前回、パワーハラスメント(以下、パワハラ)について、保育園という職場では起こりやすいということ、対処だけでなく、予防が大切ということをお伝えしました。
前回の記事はコチラ⇒パワーハラスメントにならない指導の仕方1
今回は心理的安全性という概念を軸に、どうすれば、パワハラが予防でき、より良い組織になれるのかについて、具体的なコミュニケーションの例を見ながら、考えていきましょう。
心理的安全性(Psychological safety)
まず、心理的安全性とはどういうものか、見ていきましょう。
心理的安全性の専門家、エイミー・C・エドモンドソン(1999)は、心理的安全性は、
「率直であるということであり、建設的に反対したり気兼ねなく考えを交換し合ったりできるということ」としています。
また、日本の心理的安全性を研究してきた石井(2020)は、
「メンバー同士が健全に意見を戦わせ、生産的でよい仕事をすることに力を注げるチーム・職場のこと」と、まとめています。
心理的安全性は、Google社による、「効果的なチームは、どのようなチームか」という調査・分析、プロジェクト・アリストテレスの発表により、世界的に注目されるようになりましたが、1965年に社会心理学者エドガー・シャインとウォレン・ベニスによって打ち出され、その後、エイミー・C・エドモンドソン(1999)によって「チームの心理的安全性」として概念が定義されたものです。
心理的安全性が高いとどのような効果があるのか
心理的な安全性には、以下の様な良い点があります。
働く人たちにとって良い環境であるだけでなく、チーム・組織としての成長においてもメリットが非常に大きいです。パワハラ予防としてだけでなく、保育園という組織で意識していきたい考え方です。
心理的安全性の高いチームの要素
では、どのようなチームが、心理的安全性が高いと言えるのでしょうか。
エドモンドソンの意識調査では、以下の7点を調べています。
(エドモンドソン,恐れのない組織「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらすより一部改訂)
これらはグループレベルで起こる現象であり、リーダーが生み出せるものだとしています。
また、石井が文化社会構成面の違いから、日本の組織に合わせた尺度で要素を測定したところ、心理的安全性が感じられる要素として、次のような結果が得られています。
心理的安全性について、イメージはできたでしょうか?
前置きが長くなりましたが、これらを踏まえて、保育現場でよくあるシチュエーションを見ながら、上記の4要素のチェックと具体的な対応の確認をしていきましょう。
心理的安全性セルフチェック
1.話しやすさチェック:後輩の意見、つい即否定していませんか?
「それはダメ」というようなあからさまな否定をすることはないと思いますが、意見を出してもらった直後に、「でも、それは、〇〇だから難しいと思うよ」などと、ネガティブな反応で返してしまうことがないでしょうか?そのような反応をすると、率直な意見を出しにくい雰囲気が生まれます。
例えば、<来月の製作内容を後輩に任せる>というシチュエーションを見てみましょう。
あなたの普段の対応はどちらに近いですか?
<パターン1>
先輩「8月の製作だけど、何にしようか?何かアイディアある?」
後輩「お祭りっぽいものはどうでしょう?」
先輩「う〜ん…でも、お祭りは7月にやるから、ちょっと。」
後輩「あぁ…そうですよね…」
<パターン2>
先輩「8月の製作だけど、何にしようか?何かアイディアある?」
後輩「お祭りっぽいものはどうでしょう?」
先輩「お祭りか!夏っぽくていいね。他には、何があるかな…」
後輩「花火やヒマワリも良いかもしれませんね」
先輩「いいね。お祭りは7月に園でやるから、ヒマワリか花火でいこう。どんな制作にするか案を練ってもらえる?」
後輩「そうですね。では、どんな風にするか、考えてみますね」
いかがでしょうか?<パターン1>と<パターン2>では、どちらが気軽に意見を言いやすい環境か、一目瞭然ですよね。
<パターン1>では、先輩の反応がネガティブになっているため、率直な意見、新しい意見が出にくくなります。また、後輩の立場からすると、「どうせ否定するなら、最初から先輩が決めてくれればいいのに」「先輩が納得する答えを出さなくちゃいけないんだ」などと、後輩側にもネガティブな気持ちが生まれ、度重なれば、パワハラと感じるかもしれません。先輩側に後輩に任せてみようという意図があったとしても、伝わりません。
<パターン2>は、意見を認めつつ、更に他のアイディアを引き出すことができています。意見が認めてもらえたと感じられ、信頼関係も生まれるので、パワハラの予防につながります。
どんな意見に対しても、まず、肯定的に、受け容れる気持ちを態度にして表すことが大切です。内心、(その考えはちょっと…)と思っても、態度はポジティブに示してみましょう。
また、意見を求める時は、即座にあなたの見解を伝えるのは控え、意見を出してもらうことに集中することをオススメします。いくつか意見を出してもらった後、良い部分をピックアップしてみると良いでしょう。
次回は、引き続き、助け合い、挑戦、新奇歓迎についても、例を見ながらチェックしていきましょう。
≪心理カウンセラープロフィール≫
松本 いずみ
公認心理師。明治学院大学大学院心理学専攻修士課程修了。ストレスチェック実施者研修修了。スクールカウンセラーとして都内中高で12年間従事するかたわら、メンタルヘルスサイトにて一般向けに心理学コラムの執筆とメールカウンセリングを担当。プライベートでは0歳と7歳の2児の母。最近は「あつまれどうぶつの森」を家族で楽しんでいます。
参考・引用
厚生労働省 雇用環境・均等局「パワーハラスメントの定義について」資料4
エイミー・C・エドモンドソン・村瀬敏朗 著野津智子訳
恐れのない組織「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす
Google re:work ガイド「効果的なチームとは何か」を知る
https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000366276.pdf
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/define-effectiveness/
石井遼介 心理的安全性のつくりかた「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える 日本能率協会マネジメントセンター
関山浩司 ハラスメントを予防・解決する 保育の職場づくり 中央法規
湯澤悟 御社の「パワハラ問題すべて解決します」あっと驚く!5つの最強予防戦略
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