同僚は発達障害かも?と思ったら4〜シチュエーション別対処法 (ASD編)〜
- 保育士お役立ち情報
- 2021/03/09
前回は、ASD(自閉スペクトラム、アスペルガー症候群)の理解のポイントと、解決方法を見つけるための3ステップについてお伝えしました。
今回は、ASDの特徴をふまえたうえで、お困りのシチュエーションごとに、9個ほど対策例を見ていきましょう。
(特徴についてはこちらで振り返ってください 同僚は発達障害かも?と思ったら3〜理解と連携のコツ(ASD編)〜)
ASDも実際に本人が抱えている課題や現場で困っていることは様々です。色々試してみて、上手くいった方法を継続したり、改良したりしていきましょう。
シチュエーション別対処法
目次
(1) 長い時間、同じ作業をしている
(2) 作業に時間がかかる
(3) 少し考えればわかることでも、できない
(4) 注意をすると固まってしまう
(5) 人の気持ちを理解できない
(6) 空気が読めない
(7) 言われたことをそのままの意味で受け取る
(8) 仕事が残っているのに帰ってしまう
(9) こだわりが強い
(1) 長い時間、同じ作業をしている
どこまでやれば、終わりにしていいのか分からない状況です。教室を掃除しておいてと言われても、どこをどの程度やれば終わりにしていいのかわかりません。おもちゃが片付いていればいいのか、目に見えるゴミがなくなればいいのか、掃除機をかけるのか、テーブルは拭くのか、判断が難しいです。
例えば、
教室を掃除してください → 3つの机を、除菌シートで拭いておいてください
教室の床全体を、10分間、掃除機がけしてください
など、「時間」「個数」などを、具体的な指標で伝えてみましょう。使用する道具などを指定するのも分かりやすくて、良いですね。
毎日の作業であれば、手順とおおよその時間を決めて、紙などに書いてマニュアル化しておくと、スムーズでしょう。
(2) 作業に時間がかかる
なぜ時間がかかっているのか、原因によって対応は異なります。
(1)の例のように、どこまでやれば、終わりにしていいのか判断がつかない場合もあれば、細かいところにこだわり過ぎて、作業スピードが上がらないという場合もありますし、他にも理由は考えられます。また、手先があまり器用でない人もいます。それでいて、細かい部分は気になるので、丁寧に仕上げたいため、時間がかかってしまうことも。
様子を見て、何に困っているのかに応じて、対策を考えましょう。他の項目を参照してみてください。
(3) 少し考えればわかることでも、できない
通常、「少し考えればわかる」と思われるような暗黙の了解や、一般的な望ましい行動パターンが、ASDの傾向がある人には全く分からないということが往々にしてあります。
本人としては、一生懸命考えているのですが、その場ではいくら考えても分かりません。自分で判断できるようになることが理想ではありますが、カウンセラーなどの専門家の継続的な協力が必要となるでしょう。
いずれにせよ、職場では難しいことですから、動きが止まっていた時はハッキリしてほしい行動を伝えてしまうほうがスムーズにいくでしょう。
(4) 注意をすると固まってしまう
相手の強い言動にショックを受け、注意されている内容が入っていかない状況です。固まってしまったら、一度話を終わりにして、クールダウンしてもらい、落ち着いてから次からはどうして欲しいのか、優しい雰囲気で伝えてみてください。 ただ、自分自身、腹が立ってしまい、冷静に伝えられないような時もありますよね。そういった時は、園長や管理職に相談し、別の人から伝えてもらうようにしましょう。
(5) 人の気持ちを理解できない
理解できないというよりは、理解したい気持ちはあるのに、相手の様子を見て気持ちに気づいたり、想像したりすることが難しいです。他の人が周囲の気持ちを察せることが不思議に感じています。
また、同じことをされたときに同じように感じないとか、感情そのものがないのかというとそうではなく、「自分がされたらいやだ」とは感じます。その場で置き換えて考えることが難しいのです。
「そうされると、〇〇なので困る」「大変なので、手伝ってください」「その子は今、気持ちを落ち着かせているところなので、5分ほど話しかけずに、見守るだけにしてください」など、なるべく、言葉で伝えると、気づいてもらいやすくなります。
(6) 空気が読めない
(5)と同じ状況です。場の空気を読みたくても読めません。本人も気を付けてはいますが、上手くいかないことが度々あります。もし、ふさわしくないタイミングで発言してしまうことがあれば、その言動は、どんな理由でふさわしくなかったのか、その場や事後などに伝えておくのも良いと思います。
(7) 言われたことを、そのままの意味で受け取る
裏の意味や、含みのある言葉、皮肉の理解が難しいです。言いたいことは、ストレートに伝えましょう。
例えば、本当は残業して手伝ってほしい時に「帰りたいなら、帰ってもいいですよ(できれば、行事が近いし残って手伝ってほしい)」などと伝えれば、ほぼ確実に帰るでしょう。
「行事が近いので、今日は残業して手伝ってほしい」などと、変に言い方に気を遣わずに、求めることを伝えてください。
ポジティブな冗談も通じにくいので、いい意味で伝えたのに相手が傷ついている様子があれば、本当に伝えたかったことをはっきり伝えてみてください。
(8) 仕事が残っているのに帰ってしまう
いつも通りの行動が取れることに心の安定を感じます。反対に、予定が崩れることに強い不安を感じます。
急な残業は苦痛に感じ、対応できないことがあります。仕事が残っている場合は、残るのか、誰かに頼むのか、別の日にやるのかなど、話し合っておきましょう。なるべく前もって残業の可能性を伝えておくと、本人が受け入れるための時間を持てるようになります。
例えば、シフトが発表される際に、大きな行事の前は1週間ほど、残業の可能性があるなどと、シフト表内に示しておくと受け入れやすくなると思います。
(9) こだわりが強い
独自のルールや、細かい部分に対するこだわりが強いです。手間や時間がかかっても、本人以外が苦労しないのであれば、とりあえずは、そのままにしておいても大丈夫でしょう。遠回りに見えても、こだわりを全うできることで心が安定するので、無理に止める必要はありません。
ただ、もし本人がそのことで困っているようであれば、産業医やカウンセラーなどに相談することを提案してみても良いでしょう。
周囲が困っている場合は、解決方法を見つけるための3ステップで対策を考えてみてください。
対処法のポイント
いかがでしたか?
今困っていることの解決のヒントが得られたでしょうか。
まとめると、
・言葉で、具体的に、本音を伝える
・視覚表示できるものはする
・事前にいくつかのパターンを想定した打ち合わせをする
この3点に気を付けるだけで、かなり一緒に働きやすくなるでしょう。是非、意識して声掛けをしてみてくださいね。お一人で対応が難しい場合もあるかと思います。なるべく抱え込まずに、園長先生や主任、同僚など周囲に相談してください。
色んな立場で支え合いを
発達障害について理解が深まると、自然とやり取りや、一緒に働くことがスムーズになっていきます。しかし、例えばペアの先生だけが理解を深めていたのでは、長い目で見ると園として良い状況とは言えないでしょう。負担が偏り、かえって、状況を難しくする可能性もあります。
そうではなくて、誰もが支え合える職場を目指しましょう。誰が対応するか役割を決めておくのは良いのですが、理解が深まったこと、上手くいった方法は、職内でどんどん共有し、誰もが対応できるようにしておきましょう。
第二回でお伝えしたように、大切なのは、障害の有無関係なく、園の中でスムーズに行かなくなっていること、お互いに困っていることを解決していけるように、試行錯誤し、誰にとっても働きやすい職場にしていくことです。
当事者の方は、自分の傾向を理解し、難しく感じていることを相談したり、手伝ってもらったり、理解してもらえるように説明したりするなどできると良いですね。
そして、あなた自身も、得意なことを活かして周囲を支えていきましょう。
おわりに
同僚に発達障害の傾向があった時に、どのようにすればスムーズに共に働いていくことができるのかについて、4回にわたりお伝えしてきました。
同じ障害を持っていても、それぞれ症状や困っていることは異なります。個別の状況に合わせて、様々な対処法や解決方法を見つけるための3ステップを参考に、本人とも話し合いながら対策を考えていってもらえればと思います。
誰もが支え合える職場、誰にとっても働きやすい職場であることは、子ども達を心身ともに健康に育むことにもつながっていきます。今、ほど遠い状況に置かれている方や園も、少しずつ近づいていけるよう、試行錯誤していただければと思います。
≪心理カウンセラープロフィール≫
松本 いずみ
公認心理師。明治学院大学大学院心理学専攻修士課程修了。ストレスチェック実施者研修修了。スクールカウンセラーとして都内中高で12年間従事するかたわら、メンタルヘルスサイトにて一般向けに心理学コラムの執筆とメールカウンセリングを担当。プライベートでは0歳と7歳の2児の母。最近は「あつまれどうぶつの森」を家族で楽しんでいます。
参考
佐藤 恵美 もし部下が発達障害だったら
榊原洋一・佐藤曉 発達障害のある子のサポートブック
柘植雅義ら 中学・高校におけるLD・ADHD・高機能自閉症等の指導
カウンセラーライフ 職場における「大人の発達障害」
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