待機児童問題の本質を考える。

保育園に入れなかった怒りをあらわにしたブログが発端となり、連日話題となっている待機児童問題。政府からは保育士給与引き上げに関する提言も出されるような事態となっています。

そもそも少子化で乳幼児数は減っているにも関らず、保育園に入れない子どもの数が増えてしまうのは何故なのでしょうか?問題の本質を、保育士.net代表の鈴木が率直に語りました。

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先週は映像の仕事で保育施設に3日間張り付き。大手保育施設運営会社の社員教育用動画として学童保育、院内保育(病院内)、認可保育園の1日の活動を収録するお仕事。

”しんどいね!”

立ちっぱなしの撮影は腰にしんどいが、そうではなく保育士というお仕事を見続けた感想。

「大変な仕事」であり「尊敬できる仕事」である保育士

保育施設の朝は早い。7時台には準備万端整える。7時半の開園を待ってる保護者。朝の延長保育は7時半から始まる。そこから順次保護者から園児を預かる。

「行ってらっしゃい!」
保育士は子どもを預けて仕事に向かう母親(父親)に声をかける。0歳から5歳までの園児は預けられたその時から「園の子ども」。保育士さんという母親(父親)がずっと一緒にいてくれる。

預ける親の立場になれば「よろしくお願いします。これで心置きなく仕事行けます!」。それで良い、そのために保育園はある。
保護者の皆さんが安心して自分の仕事ができるように、大切なお子さんをお預かりする場所「保育園」。夜は最大20時まで面倒を見てくれる。

保育園に来た子ども達は満身の力で保育士さんにぶつかっていく。全力で受け止める保育士さん。園児の年齢によって担任制になっているが、延長保育になれば全年齢を相手にしなければならない。

少しの空き時間を見つけて園であったことを保護者に報告、連絡帳への記載。年次で違うおやつや昼ごはんの内容。寝かしつけ(普通はこんなに簡単に昼寝しないだろうに!)。

ここでやっと一息。撮影隊も次から次に展開される出来事についていくのがやっと。毎日の事とはいえ、ここまで目まぐるしいのであろうか?

どんなに園児がわがまま言おうがグズろうが、しっかり対応。入社1年目、2年目の保育士さんでも頼りになるプロフェショナル。
忍耐力、責任感、使命感、子どもに対する愛情。そのどれもが本当の親に勝るとも劣らないものである。

学童保育での保育士さんも大変!
放課後の子どもたちを預かる学童保育。5歳までの子どもとはまったく違うしんどさがある。幼児よりも力は強い、言葉は容赦ない、人間関係も厄介。
それでも嫌な顔することなく、しっかり対応。子ども同士の揉め事にもしっかり対応。叱るべきところはしっかりと叱る。

保育園でも学童保育でも「大変な仕事」であり「尊敬できる仕事」である保育士さん。
自分には絶対にできない。

「個の権利」を優先し「集団や集落」に対する意識が薄れたことが問題の本質

昨今SNSを賑わせている待機児童問題。「保育園落ちた、日本死ね」などとつぶやいて国会でも取り上げている。こういう「品のない(下品な)」言葉を吐ける神経が信じられない。

「保育士さんに言ったわけじゃない、国に言ったんだ。」そう言うかもしれない。
しかし、マスコミで流れた以上、その言葉は現場で働く人たちにも届く。どのような思いでその言葉を見るであろう。

保育士さんだってできるだけ多くの園児の面倒を見てあげたい、しかし限界がある。
保育士の資格を持っていても家庭の事情で保育士の給与では生活できないので他の仕事に就いている人もいる。

「じゃあ国が保育士の給与を上げるようにすればいいじゃないか!」
簡単にそのような事を言う人がいる。 給与を上げれば保育士が増えるとでも思っているのか?もちろんある程度は増えるかもしれない。

しかし、問題の本質は保育園の数でも保育士の給与でもないのだ。

我々昭和40年代生まれはベビーブームでもある。その頃にこのような問題があったであろうか?保育園が足りない、待機児童問題などと。
小学校が足りなくて新設校がどんどん建ってる時代だ、本来なら待機児童問題は今よりも深刻なはずだ。しかし、そんな話は記憶にもない。 なぜか?

当時は専業主婦が多かったから?今はなぜ仕事をする女性が増えた?旦那の稼ぎが悪いから?だとしたら企業の給与が低いことが待機児童の根本原因?
それとも核家庭化が進み、おばあちゃんやおじいちゃんが一緒にいないから?ではなぜ一緒に住まない?

この半世紀で日本人は「個々人の自由」を最優先にして経済発展してきた。そして価値観も「家族」よりも「個人」を優先してきた。そのことが家族の結びつきを弱くした。

さらに核家庭化が進み地域社会との繋がりも弱くなった。隣のおばあちゃんに面倒を見てもらうようなこともなくなった。
国民全体で「個の権利」を優先するようになり「集団や集落」に対する意識が欠落していった。

それが待機児童問題の本質ではないのか?日本人が本来持っている「共感協調、助け合い」の精神を持ってすれば解決する問題なのだ。
しかし、それらの精神は西欧化した価値観の刷り込みによってほぼ壊滅した。

どうすれば保育士に正当な対価を支払うことができるのか?国民全体で議論すべき

今は「個の権利」が尊重される時代。現在活動している保育園や保育士さんはそう言った日本の欠落した部分を補填している存在なのではないか?
それならせめて「保育士さん」に対して感謝の思いを持ち続けて欲しい。

そして気持ちの対価は当然支払うべきである。例えば看護師さんの給与が低いと聞いたことはあまりない。それは医療行為を受けると一定の対価を支払うからだ。

認可保育園に子どもを預ける際に月々支払う金額は果たして適正なのだろうか?国が税金で賄う部分も当然増やすべきである(現在の医療保険並みに予算化するべき)。
しかし、サービスを受ける側の負担もそれ相応のものでなければ、現場で働く人の給与は増えない。

このことは国民全体で議論すべきことである。子育てに関係ない世代も含めて考えなければならない問題である。これみよがしに乳飲み子を抱っこして寒い議員会館に行き、署名を渡してマスコミにアピールするような政争の具にしてはならない。



鈴木 みのる

保育士.netを運営する「株式会社ドゥプランニング」の代表取締役社長。
※上記記事は、鈴木の個人ブログからも読むことができます。⇒みのログ(minolog)

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